2023年9月に開催されたスペシャルティコーヒー展示会SCAJ2023において、フェアトレード・ラベル・ジャパンはSCAJサスティナビリティ委員会と共催で、フェアトレード認証に携わる来日生産者や国内認証企業、専門家が登壇するパネルディスカッションセミナーを開催しました。
フェアトレードコーヒーの品質への評価が上がっている今、サステナビリティと品質を両立する取組みについてペルーの事例などからご紹介するとともに、日本で初めて開催されたフェアトレードコーヒーの品評会「Golden Cup Peru プレカッピング@日本」で高く評価された上位5銘柄の試飲も行い、フェアトレード認証コーヒーの品質を体感いただきました。
【開催概要】
タイトル:持続可能性と品質を両立するフェアトレード認証の最前線
日 時:2023年9月28日(木)13:00〜14:30
会 場:東京ビッグサイト 南3ホール セミナールームE
主 催:SCAJサスティナビリティ委員会、認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン
特別協賛:ワタル株式会社
【プログラム】
オープニング挨拶(SCAJサスティナビリティ委員会委員長・兼松株式会社 江藤 雄介 氏)
イントロダクション(認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン 事務局長 潮崎 真惟子)
パネリストによる発表
小川珈琲株式会社 専務取締役/COO 宇田 吉範 氏
中南米フェアトレード生産者ネットワークCLAC Commercial Manager Paulo Ferreira Junior 氏
国際貿易センター ITC Cecilia Megumi Sanada 氏
パネルディスカッション
クロージング挨拶(SCAJサスティナビリティ委員会副委員長・株式会社堀口珈琲 伊藤 亮太 氏)
【セミナー内容の概略】
オープニング挨拶
江藤 雄介 氏(SCAJサスティナビリティ委員会委員長・兼松株式会社)
フェアトレードというと、開発途上国の裕福ではない生産者を助けるために金銭を支払うというイメージを持つ方もいるかもしれませんが、決してそうではなく、確かな品質に対し、コーヒーを作ってくれた人に適切な対価を支払うという、作り手と買い手の両者にとって対等な関係を生み出す流れを作ろうとするものです。今日はフェアトレードが実践している活動や、そのコーヒーを使っているロースター、ペルーの生産者の取り組みなどからフェアトレードについて学んでいただきます。最後までお聞きいただいたあとには、フェアトレードのコーヒーを飲んでみよう、取り扱ってみようという気持ちになってもらえるものと思います。
イントロダクション(開催背景)
潮崎 真惟子(認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン 事務局長)
サステナブルコーヒーにさまざまな種類が出てきている中で、その一つとしてフェアトレードに関心を持ってもらいたいと思います。フェアトレードは近年品質の向上に注力しており、コーヒーの場合は10年前からプレミアムの25%を品質のために使うことが義務付けられています。コーヒーは原料の品質が価格や将来的な生産者の収入に直結するものであるため、品質向上がマストであり、世界中で品質向上のための支援を行なっています。その結果、グローバル・日本で多くの企業がフェアトレードを導入しており、日本においてはフェアトレード市場の8割以上をコーヒーが占めています。生産者の生活を変えていくためにコーヒーは非常に重要な産品です。
今回のセミナーのキーワードは「品質」。品質を高めるため、フェアトレードはグローバルでGolden Cupという、フェアトレード認証コーヒーだけを集めた品評会を開始し、13ヵ国で国ごとに開催しています。今回は特に俄かに注目が集まるペルー産コーヒーを日本でも紹介しようと、Golden Cupペルー大会と連携して企画を行いました。先週、ワタル株式会社の特別協賛のもと、SCAJサスティナビリティ委員会との共催で、ペルー大会ファイナリストのコーヒー21銘柄のカッピングセッションを行いました。フェアトレード認証のスペシャルティコーヒーだけを集めた日本初の取り組みであり、サステナビリティと品質をより高めていくための大きな一歩になると考えています。
パネリスト発表:小川珈琲株式会社
「小川珈琲は、シンプルに、自分たちの想いの中でコーヒー文化を守り、未来に繋げていきたいと思っています。そのために美味しいコーヒーを届け、生産者が生産を続けられる状況を作ること、こうした取り組みをロースターとして、双方向に伝えていきます。」
宇田 吉範 氏(小川珈琲株式会社 専務取締役/COO)
京都で創業し昨年70周年を迎えた、日本では歴史のあるコーヒーロースターの小川珈琲は「コーヒー職人として、未来をつなぐ本物の価値を創造し、真心を持ってお届けする」という企業理念をもち、コーヒー文化を未来に残す、次世代に残すことを強く意識しています。コーヒーを飲み続けられる環境を作るために何をしたらいいか考え、産地を守り、続けられるよう、生産者と直接話をしています。小川珈琲がフェアトレードコーヒーを発売したのは2004年で、フェアトレードの家庭用コーヒー、業務用、ギフトも販売しており、京都にオープンした直営店舗ではフェアトレードやオーガニック、バードフレンドリーなどのエシカルコーヒーだけを扱っています。
商品購入時に環境や社会を意識しているかという調査では、特に若い人を中心に意識が高いですが、サステナブル商品の購入経験を見ると日米英中の中で日本は極端に少なく、購買まではつながっていません。フェアトレードコーヒーはまだまだ買われていない状況であり、お金を払うことの価値を感じられていないということです。コーヒーの品質を高めるということは価値を上げることで、高いと感じないものを作るということにもつながります。
小川珈琲がお届けしたいのは、スペシャルで非常に値段が高いコーヒーということでは決してなく、日常飲むコーヒーであり、フェアトレードだから買って欲しいというのではなく、普段飲んでいるコーヒーが気づいたらフェアトレードやエシカルであった、ということを目指しています。フェアトレードコーヒーがどこでも買えるように売り場を増やし、フェアトレードであることを知ってもらえる活動を続けていきます。
パネリスト発表:中南米フェアトレード生産者ネットワークCLAC
「Golden Cupは消費者目線で美味しいコーヒーを探すことだけを目的としているのではなく、生産者にとっても、参加して評価してもらうことがモチベーションになり、自分に足りないものを理解し、どうやって品質を向上していくかを考えることができます。」
Paulo Ferreira Junior 氏(中南米フェアトレード生産者ネットワークCLAC Commercial Manager)
ペルーはコーヒー生産量では世界第9位、栽培面積では30万ha以上、農家数は20万戸以上と、世界のコーヒー生産の中で重要な地位を示していますが、その95%が耕地面積5ha以下の小規模生産者が占めています。世界で販売しているフェアトレード認証コーヒーの4分の1がペルー産であり、認証を受けている協同組合が189団体、所属する農家は64,000戸以上、耕作面積でいうと国内コーヒー耕作地のほぼ半分がフェアトレード認証農園で、そのうち77%がオーガニック認証も取得しています。
コーヒーに限らず、農産物や自然に関わる産業は気候変動の大きな影響を受けており、生産者は今後どのような気候環境になるのか、先が読めないことで栽培上の困難を抱え、更にコーヒーの木が病害を受けやすくなっています。病害により収穫量が減り、農薬が必要となるリスクもあり、これまでとは別の気候変動対策を取らなければならず、手間とコストがかかります。こうした状況において、生産者組合と各農家は、変動する気候に強い栽培法や、気候変動の元でコーヒー栽培を続けていける方法を模索しており、フェアトレードの取引によって支払われるプレミアムを使い、レジリエンスを高めるための対策を取っています。
生産者組合は、資金調達の課題や後継者不足、不安定な市場に対応できるよう、小規模農家に対してマイクロファイナンスなどの融資や、若い世代がコーヒー生産に携わろうと思えるようトレーニングや新しい手法の導入、フェアトレードのシステムによる収入の安定化などに取り組み、CLACはそういった取り組みをサポートしています。CLACが生産者へ実施する品質向上を含む取り組みの一つがGolden Cupです。フェアトレード認証コーヒーを生産するそれぞれの国で、一番いいコーヒーを選定し、品質の向上を目指します。また、小規模農家にとっては難しい、市場トレンドの把握や海外の展示会への参加ですが、CLACが生産者を代表して展示会に参加したり、市場動向やニーズの情報を生産者に提供したり、生産者とバイヤーを繋ぐ役割を担ったりしています。
パネリスト発表:国際貿易センター
「高品質のコーヒーを生産し、商品化することは、持続可能な生産を保証することに繋がります。国際貿易センターはフェアトレードを評価し、Golden Cup実現のためにフェアトレード生産者ネットワークとパートナーシップを構築して協働しています。持続可能な開発を促進し、生産者や労働者のコミュニティが人間らしい生活を実現することこそ、フェアトレードの重要性と強みです。」
Cecilia Megumi Sanada 氏(国際貿易センター)
国際貿易センター(ITC)は、国際連合(UN)と世界貿易機関(WTO)との共同機関で、主に途上国の中小企業を対象とした技術協力を行っています。持続可能で豊かな未来を創造することを目的に、他の機関や基金、プログラム、専門機関と連携することで、国連の開発目標であるSDGsを各国が達成できるように支援しています。
ITCは、開発途上国の小規模事業者の競争力を高めるという共通の目標のもと、フェアトレードを高く評価して、パートナーとして活動しています。女性や若者、弱い立場にある人々に力を与え、環境の持続可能性とバリューチェーンの回復力を強化し、中小規模の事業者が、デジタル化がもたらす様々な可能性から等しく恩恵を得られるよう、フェアトレードと共に活動しています。ITCは特に、貿易関連の経営支援と、プロジェクト管理における深い専門知識、貿易関連組織のグローバルネットワーク、国際組織としての機敏性や信頼性を提供しています。
パネルディスカッション進行:潮崎 真惟子(認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン 事務局長)
「フェアトレードやサステナブルなコーヒーを扱う上で困難があると思いますが、その中でも取り組んでいく意義は何でしょうか?」
―(宇田)コーヒーを次世代に繋げていきたいと考えた時に、コーヒーを作り続けてもらえることをしっかり目指さないといけない、ということがあります。そのためには、適切な収入がなければ作り続けられないし、場所や環境を維持できる必要があります。私が産地に行くたびに温暖化の話になりますが、同じ産地をずっと見ている中で、温暖化による変化を感じています。コーヒーの産地は限られているので、暖かくなったから標高の高い場所に移ればよい、ということができない国もあります。それに向けて、品種改良、生産方法、土壌の作り方などもサポートしています。ハイブリッドのコーヒーを広めていくにしても、健康な農地や働きやすい環境が必要で、お金儲けよりも、しっかりと多くの人にコーヒーを届けることに集中したい。
「Golden Cupを通じて生産者の意識にどんな変化が出てきていますか?」
―(セシリア)審査責任者として、この3年間を通して一貫して感じているのは、農家や組合は、自分たちが作る美味しいコーヒーに誇りをもっていること、そして頑張っていることをみんなに知ってもらえることに喜びを感じているということです。値段のことだけではなく、生産者たちが頑張っていることが国外にも伝わっていくことは、とても良いことだと感じています。
―(潮崎)生産者が誇りを持ってモチベーションになっているということですね。先ほど宇田さんの話にもありましたが、全体としても底上げにつながっているのだと思います。
「気候変動の対策に取り組んでいくには生産者だけの力では難しいですが、日本の企業やビジネスに期待することは何でしょうか?」
―(パウロ)コーヒー業界の皆さんとつながっていくということが非常に重要です。生産者が生産だけしていても消費者の手に渡りません。サプライチェーンが必要であり、重要です。気候変動の問題は世界レベルであり、コーヒー生産者だけが影響を受けているわけではありません。消費者の皆さんが何をするかで、非常に大きな影響があります。フェアトレードの商品を買うという消費者の行動で、生産者が必要なアクションを取ることを支援できます。サプライチェーンに必要な知識を得て意識のレベルを上げ、公正な価格を得られるようになることで、必要な対策も取ることができます。日々食べていくことだけではなく、品質向上のための投資や環境対策を取ることができます。気候変動の問題は年々悪化しており、サプライチェーンを通してのサポートが必要です。
―(潮崎)私たちも気候変動の問題につながっているということを意識し、購買に結びつけていくことが、日本の課題として挙げられました。グローバルで一緒に取り組んでいきましょう。
クロージング挨拶伊藤 亮太 氏(SCAJサスティナビリティ委員会副委員長・株式会社堀口珈琲)
フェアトレードの取り組みを知ると同時に、品質が上がっていることを実感してもらうことがセミナーの目的でした。実際に試飲していただき、品質向上を実感してもらえたのではないかと思います。
今回、日本のカッピングセッションで上位になったのは全てゲイシャという結果でした。日本のカッパーが選んだのはゲイシャでしたが、今後、もっと多様なコーヒーが評価されていくことを願っています。
本日はお忙しいところありがとうございました。
引き続きフェアトレードへの関心とサポートをお願いします。