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【インタビュー】フェアトレードの変革力:ペルーコーヒー生産者ハビエル・カウアパザの旅
立命館アジア太平洋大学 2年生(取材当時)
フェアトレードの変革力:ハビエル・カウアパザの旅
ペルー南部に位置する高地プーノ。コーヒーの花が咲き誇る芳香に包まれたこの地に、コーヒー産業に対し、国境を越えて広がる情熱を抱くひとりの男性がいます。大学で農業工学と経済学を学び、コーヒー生産の専門家としてフェアトレードの推進に情熱を注ぐハビエル・カウアパザ・ママニ氏(以下ハビエル。敬称略)です。彼は20年以上にわたり、コーヒーを育てるだけでなく、希望、強靭さ、そしてコーヒー栽培コミュニティの明るい未来をも育んできました。彼の物語は、ペルー国内外の何万もの農家の生活に深い影響を与えてきたフェアトレードの変革力を証明しています。
ハビエル 自分のコーヒー農園にて
Copyright: Javier Cahuapaza
コーヒーと教育への取り組み
ハビエルの旅は、ペルーのプーノ地域に位置するボリビアとの国境の小さな町、サン・ファン・デル・オロから始まりました。コーヒー生産者の家庭に生まれた彼は、コーヒー栽培に人生を捧げる三代目となります。土地とその土地が生み出すコーヒーとの深い結びつきが、彼の将来を大きく形作ることになります。幼少の頃から、ハビエルはコーヒー生産中心の生活の中で育ち、栽培、収穫、加工の細部にわたる技術を学びました。
ハビエル(写真左)と妻、2人の子どもたち
Copyright: Javier Cahuapaza
コミュニティへの貢献をさらに深めるために、ハビエルは高等教育への道を選びました。彼はプーノの国立アルティプラーノ大学で農業工学の学位を取得し、その後、インカ・ガルシラーソ・デ・ラ・ベガ大学で経済学を専攻しました。グローバルなコーヒー市場の複雑さを認識した彼は、国際ビジネスとファイナンスでMBAを取得しました。しかし、彼の学びへの探求はそれにとどまらず、イタリアのジェノバ大学で、協同組合の戦略的組織経営と国際化に関する修士号も取得しました。
コーヒー産業のリーダーとしての成長
学術的な知識に基づく農業への深い理解を携え、2001年、有機コーヒープログラムに焦点を当てた技術専門家として、ハビエルは職業キャリアをスタートさせました。彼の役割は、コーヒーの品質を向上させるだけでなく、持続可能で環境に優しい農業を確実に実践していくことでした。年を重ねるごとに彼の専門知識は成長し、責任も増していきました。ハビエルのリーダーシップはすぐに頭角を現し、コーヒー業界内での彼の評価はぐんぐんと上がっていきました。
1993年にフェアトレード認証を取得したCECOVASA協同組合で、ハビエルは17年間、重要な役割を果たしました。彼は、集荷係、フィールド技術者、輸出責任者といった様々な業務を経て、最終的にはゼネラルマネージャーに就任し、組織を率いました。CECOVASAでの日々は、彼の決意と創意工夫が試される困難の連続でした。山の奥地に位置する農地ゆえの輸送の困難さ、「コーヒーベリーボーラー」として知られる害虫や「オホ・デ・ポヨ/オホ・デ・ガヨ」「黄色さび病」などコーヒーの木に発生する病気の脅威など、協同組合はいくつもの困難に直面しました。さらに、国際的なコーヒー価格の変動は、農家の生計にとって重大な脅威となっていました。
こうした課題にもかかわらず、ハビエルはリーダーシップを発揮し、数々の困難を乗り越えて、協同組合を成功へと導いていきました。彼の指導の下、CECOVASAはフェアトレード認証を維持するだけでなく、さらに強化することができ、コーヒー生産者の生活改善に重要な役割を果たしました。フェアトレードの取引を通じて得られたプレミアムは、コミュニティに再投資され、教育、医療、持続可能な農業の実践に役立てられていきました。フェアトレードに対するハビエルのコミットメントは、コミュニティの向上に貢献し、農家とその家族の生活に具体的な変化をもたらしました。
CECOVASAを超えた貢献の拡大
コーヒー業界におけるハビエルの影響力は、CECOVASAという一つの協同組合の範囲をはるかに超えていきました。彼の専門知識と経験は、ペルー全国コーヒー評議会(JNC)といった大きな組織での仕事のほか、イナンバリ協同組合や現在所属するCENFROCAFE協同組合など、様々な組織での活動へと発展していきました。これらの役職においてハビエルは、プロジェクトの管理、ビジネスプランの策定、戦略的計画の監督、品質管理などを担当しました。
CENFROCAFE協同組合では、自分たちの品質管理ラボを作り、コーヒーの最高品質を確保しています。
Copyright: Javier Cahuapaza
彼の関心は常に有機栽培とフェアトレード認証にあり、それがペルーのコーヒー栽培の未来を確保するための鍵であると信じています。
CENFROCAFE は、トレーダーや焙煎業者などの訪問を受け入れ、海外ビジネスパートナーたちとの協力関係を育んでいます。
Copyright: Javier Cahuapaza
CECOVASAやCENFROCAFEといったフェアトレード認証を持つ協同組合での活動において、ハビエルはペルー各地に赴き、自身の知識を共有し、協同組合のビジネスや財務管理を支援してきました。ハビエルの貢献により、これらの協同組合は、フェアトレード認証かつ高品質なコーヒー生産において、リーダー的存在としてのポジションをペルー国内外で確立しました。
ハビエル(左)と同僚たち。2023年カハマルカ地方政府の旗の下でコーヒー製品を展示するCENFROCAFEのブースで。
Copyright: Javier Cahuapaza
フェアトレード:コーヒー農家の命綱
ハビエルがフェアトレードにここまでコミットしているのは、単に仕事としてではなく、個人として深い想いがあるからです。彼は、フェアトレードをコーヒー農家にとっての命綱と捉えており、より公正な収入、安定した市場、そして将来への投資手段を提供していると考えています。「フェアトレードは単なる認証ではなく、農家に力を与え、環境保護を促進し、土地とそれを耕す人々を尊重しながら、コーヒーを育て続けられるようにする取り組みなのです」とハビエルは話します。
ペルーのコーヒー農家の生活に対するフェアトレードの影響は計り知れません。フェアトレードプレミアムのおかげで、コミュニティは学校を建設し、道路などのインフラを改善し、より良い医療を受けることができるようになりました。これらの投資は、農家とその家族の生活の質を向上させただけでなく、コミュニティの社会的結束も強化しました。「フェアトレードのおかげで持続可能な農業を実践できるようになり、将来の世代のために、土地を肥沃で生産的な状態に保つことができるようになったことを誇りに思っている」とハビエルは語ります。
コーヒーのイノベーションのためのクルス・デ・チャルポン実験農場:サンイグナシオに10ヘクタールの実験農場をつくり、ゲイシャやセントロアメリカーノH1種を含む31品種のコーヒーを栽培しています。ワールド・コーヒー・リサーチ(WRC)と協力し、持続可能な農業を推進し、生産者のトレーニングを行っています。
Copyright: CENFROCAFE
気候変動:新たな挑戦
しかし、この旅は試練の連続でもありました。ペルーのコーヒー栽培の基盤を脅かす気候変動という厳しい課題が浮上しているのです。予測不可能な天候の変化、長期にわたる干ばつ、大雨、新たな病害虫の出現により、農家はこれまで予想していなかった方法での適応を余儀なくされています。「気候変動は無視できない現実です」とハビエルは述べています。「すでに私たちのコーヒー生産に大きな影響を与えており、積極的に解決策を見つけていかなければなりません」
これらの課題に対処するために、CENFROCAFEは大胆な一歩を踏み出し、コーヒー研究センターを設立しました。このセンターは、気候変動の影響に強い新しいコーヒー品種を特定し、再生産することに専念しています。例えば、カティモールのような品種は、より多くの肥料を必要としますが、変わりゆく気候条件に対する耐性が高いという利点があります。
ハビエルは前向きに未来を見据えています。こうした取り組みにより、この地域のコーヒー生産の未来が確保され、農家がフェアトレードや有機認証の高い基準を満たしたコーヒーを栽培し続け、厳しい国際市場でも競争力をつけていくことができると。
ハビエル(写真中央)とCLAC (中南米フェアトレード生産者ネットワーク)のエクアドル、ペルー、ボリビア拠点のスタッフたちと
Copyright: Javier Cahuapaza
未来へのビジョン:フェアトレードをさらに多くの人たちに届けるために
未来に向け、ハビエルは、フェアトレードの理念がいたるところで大切にされ、すべてのコーヒー農家がよりフェアな報酬を受け取り、公正・公平な条件のもとで働ける世界を夢見ています。彼は、自身のキャリアを支えてきた知識や価値観を次世代のコーヒー農家に伝えることに尽力しています。「アメリカ、ヨーロッパ、アジアの市場を含め、世界のコーヒー産業がもっとフェアトレードコーヒーを購入してくれることを望んでいます」と彼は語ります。「それによって協同組合は、研究や教育に投資し、生産者の生活条件をさらに改善することができるでしょう」
ハビエルの志はペルーの国境を越えて広がっています。彼は、ペルー産コーヒーを代表してさまざまな国際会議や見本市に参加し、フェアトレードのメリットを訴えるとともに、ペルーコーヒーの優れた品質をアピールしてきました。彼の旅は、アメリカ、ブラジル、日本、韓国、コロンビア、ヨーロッパ諸国など、多くの国々に及び、そこで貴重なパートナーシップを築き、自身の経験を世界に向けて発信してきました。
世界最大級のオーガニック食品見本市「BioFach」に出席したハビエル
Copyright: Javier Cahuapaza
これらの取り組みを通じて、ハビエルは、フェアトレードがより多くの生産者に届き、市場での地位を強化し、コーヒー栽培コミュニティ全体に対してより大きなポジティブな影響をもたらすことを期待しています。「フェアトレードは、世界のコーヒー産業を変革する可能性を秘めています」と彼は強調します。「しかし、その可能性を最大限に引き出すためには、農家、協同組合、企業、消費者、そして政策立案者など、すべてのステークホルダーが協力することが必要です」
さいごに
ハビエル・カウアパザが、ペルーの小さなコーヒー栽培の町からフェアトレード運動の重要人物になるまでの道のりは、強靭さ、リーダーシップ、そして社会的・経済的正義への揺るぎない献身の物語です。彼の活動は無数の農家の生活を向上させただけでなく、持続可能で公正なコーヒー生産の基準を築き上げました。
私たちが一杯のコーヒーを楽しむことができるのは、ハビエルのような農家の努力と献身があることを心に留めるべきでしょう。彼らはより公正で倫理的な農業を通じて、世界をより良い場所にしようと努力しています。ハビエルの未来へのビジョンは明確です。それは、フェアトレードが当たり前となり、農家が力を持ち、コーヒー産業が善の力となる世界です。彼の物語は、一人の人間が自分を超えた大義に人生を捧げることで、どれほど深い影響を与えられるかを強く示しています。結局のところ、コーヒー豆は単なる製品ではなく、一粒一粒に、その土地、その地域、そしてそれを育て上げた協同組合と人々の表現が込められているのです。それは文化であり、命であり、労働の賜物なのです。
CENFROCAFEがプロデュースするCafé APUブランドのコーヒー製品は、ペルー全土の様々なスーパーマーケットで販売されています。
Copyright: CENFROCAFE